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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3994号 判決 1999年3月05日

原告 株式会社A野

右代表者代表取締役 B山太郎

右訴訟代理人弁護士 山本彼一郎

被告 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 小野田隆

右訴訟代理人弁護士 野村正義

同 上林博

同 瀧賢太郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七四三六万三八四二円及びこれに対する平成六年一二月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、原被告間で火災保険契約(以下「本件火災保険契約」という。)を締結した後、保険の目的である倉庫(以下「本件倉庫」という。)が火災(以下「本件火災」という。)により半焼し、本件倉庫内に存在した、同じく保険の目的である在庫商品等も全焼したとして、本件火災保険契約に基づく保険金請求として、金七四三六万三八四二円及びこれに対する請求の日の翌日である平成六年一二月七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠により容易に認定することができる事実を含む。)

1  原告は、港湾工事等に関する機器具の販売等を目的とする株式会社であり、被告は、火災保険事業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

2  原告は、平成四年一一月一九日、被告との間で、次のとおり本件火災保険契約を締結し、同日、被告に対し、保険料を支払った。

(一) 保険の目的

(1) 原告所有の本件倉庫

所在 和歌山県有田郡《番地省略》

家屋番号 《省略》

種類 倉庫

構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺 平家建

床面積 四八三・九四平方メートル

(2) 本件倉庫内の商品・製品・半製品・仕掛品・原材料

(二) 保険金額

(1) 右(一)(1)につき三五〇〇万円

(2) 右(一)(2)につき一億二〇〇〇万円

(三) 保険料

二〇万一一五〇円

(四) 保険期間

平成四年一一月一九日午後四時から平成五年一一月一九日午後四時まで

(五) 被保険者

原告

(六) 免責条項1(虚偽申告等による免責)

(1) 原告は、保険の目的について損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく書面をもってこれを被告に通知し、かつ、損害見積書に被告の要求するその他の書類を添えて、損害の発生を通知した日から三〇日以内に被告に提出しなければならない(右保険契約の約款(以下「約款」という。)一七条一項)。

(2) 原告が正当な理由がないのに右(1)に違反したとき又は提出書類について知っている事実を表示せず、もしくは不実の表示をしたときは、被告は保険金を支払わない(約款同条四項)。

(七) 免責条項2(事故招致免責)

原告の取締役の故意もしくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては、被告は保険金を支払わない(約款二条二項(1))。

3  平成五年九月二七日午前〇時ころ、本件倉庫内で本件火災が発生し、本件倉庫の一部が燃えた。

4  原告は、遅くとも平成六年一二月六日、被告に対し、本件火災保険契約に基づく保険金の支払を請求した。

三  争点

1  免責条項1の適用の有無(原告は、被告に対し、不正な保険金取得の目的で不実の表示をしたか。)

(一) 被告

原告は、次の(1)(2)等により、保険金を不正に詐取するという、保険契約上の信義誠実の原則に反する目的で、本件火災による損害の内容について不実の表示をしたから、免責条項1により、被告は保険金支払義務を負わない。

(1) 原告は、真実は本件火災当時、本件倉庫内に存在しない商品であることを知っていたにもかかわらず、平成五年九月二八日、被告に対し、請求書、納品書、第七期決算報告書等を提出した上、本件火災当時本件倉庫内に存在し、焼失した商品が平成五年三月に購入した新品の海洋汚濁防止膜(シルトプロテクター、以下「シプロ」などともいう。)五二本である旨不実の表示をした。

(2) 原告は、真実は本件火災当時、本件倉庫内に存在しない商品であることを知っていたにもかかわらず、平成六年一二月六日、被告に対し、証明願等を提出した上、本件火災当時本件倉庫内に存在し、焼失した商品の一部が平成元年六月購入のシルトプロテクター二三本(うち請求の基礎とした部分が一五本)である旨不実の表示をした。

(二) 原告

(1) 右(一)(1)は認めるが、真実存在したシルトプロテクターの保険金請求の便宜のためにしたにすぎず、原告が、右表示を、保険金を不正に詐取する目的でしたことは否認する。

(2) 右(一)(2)のうち、原告がした表示の内容は認めるが、表示にかかる商品が本件火災当時、本件倉庫内に存在しない商品であったこと及び右事実を原告が知っていたことは否認する。原告の表示にかかる商品は、真実本件火災当時、本件倉庫内に存在したものである。

(3) 右のとおり、原告が右(一)(1)のとおり、客観的に虚偽の申告をしたことは事実であるが、これは保険金を詐取することを企図したものではない。

したがって、免責条項1の適用は認められるべきではない。

2  免責条項2の適用の有無(本件火災は、原告代表者が関与した放火によるものであるか。)

(一) 被告

本件火災は、原告代表者が関与した放火によるものであることが十分に推認されるから、免責条項2が適用されるべきである。

(二) 原告

本件火災が放火によって生じたものであることは不知、本件火災が原告代表者が関与したものであることは否認する。

3  本件火災による本件倉庫の改修費用及び倉庫内の商品の損害額

(一) 原告

本件火災による本件倉庫の改修費用及び倉庫内の商品の損害額は次のとおりである。

(1) 本件倉庫関係

改修費 二一三三万一〇五七円

(2) 在庫商品関係

ア 磁気マット、ブイ等 一四三五点

仕入価格総額 七六一万九五〇〇円

イ シルトプロテクター(海洋汚濁防止フェンス) 五二本

仕入価格総額 四五四一万三二八五円

ただし、右のシルトプロテクター五二本は、原告が太陽工業株式会社(以下「太陽工業」という。)から購入した次の六〇本のうちの五二本であり、単価の低い順にbが一二本、cが二五本、aが一五本の合わせて五二本が損傷したものとして総額を算出した。

a 平成元年六月購入のシルトプロテクターB型、八六本のうちの二三本(部品付単価九九万四二一九円)

b 平成二年一二月購入の同商品、一二本(部品なしの単価五〇万円)

c 平成三年五月購入の同商品、二五本(部品付単価九八万円)

(二) 被告

右(1)は不知であり、右(2)は否認する。また、右(2)には中古品も含まれており、仕入価格を損害額とするのは不当である。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一)(1) B山太郎(以下「B山」という。)は、原告の代表取締役である。

(2) C川松夫(以下「C川」という。)は、本件当時、太陽工業の関西地区営業部従業員であったが、平成三年五月三一日から、太陽工業に無断で原告の取締役となっていた者である。

(3) 川並正明(以下「川並」という。)及び多田羅謙司(以下「多田羅」という。)は、本件当時、いずれも被告大阪本社第二事故サービス部関西火災新種事故サービスセンター第二課員であった者であり、本件火災に関する調査を担当したものである。

(4) 北村博美(以下「北村」という。)は、本件当時、太陽工業生産事業部枚方工場製造課課長であった者であり、シルトプロテクターの製造に携わっていたものである。

(5) 山下恒(以下「山下」という。)は、本件当時、イズミシッピング株式会社和歌山営業所の従業員であり、本件火災保険契約の締結を担当したものである。

(6) 竹守雅裕(以下「竹守」という。)は、本件当時、損害保険協会で認定された一級鑑定人として、本件火災による損害等の鑑定を行った者である。

(7) 日高敏文(以下「日高」という。)は、本件当時、株式会社ニック(以下「ニック」という。)の調査部次長であり、本件火災の調査を担当したものである。

(二) 原告は、昭和六〇年ころ、大林組から、阪南市の関西新空港建設に伴う桟橋撤去工事に関する海洋汚濁防止業務を請け負い、その関係で、太陽工業は、原告に対してシルトプロテクターの製造販売をすることとなった。

(三) 太陽工業では、顧客からシルトプロテクターの製造販売を受注した場合、マスペと呼ぶ三枚綴りの受注票に受注内容、原価内容、代金額とその支払条件、納入先等を記入し、これを同社の製造部門である枚方工場に送付する扱いとなっている。

(四) そして、原告は、昭和六三年一一月から、シルトプロテクターを太陽工業に発注した。右シルトプロテクターの保管及び搬送については、本件倉庫ができるまでは太陽工業が枚方工場で保管して、太陽工業の運送業者が現場に搬送していた。

(五) 原告は、平成元年六月、太陽工業から、マスペ番号二一一―一〇―八九―〇六四、カーテン丈三メートルのシルトプロテクター(以下「本件シプロ①」という。)八六本を八八五八万円で購入し、本件シプロ①八六本は、同月中に、いずれも大林組に転売され、太陽工業枚方工場から阪南市の桟橋撤去工事現場に搬出された。

(六) 原告は、平成二年一二月二七日、太陽工業から、マスペ番号二一一―一〇―九〇―九九、カーテン丈三メートルのシルトプロテクター(以下「本件シプロ②」という。)一二本を六一八万円で購入した。

(七) しかし、原告の第五期(平成二年四月一日から平成三年三月三一日まで)財務諸表には、平成三年三月三一日現在の流動資産中の販売用資産は、四七万円と記載されていただけである。

(八) 原告は、平成三年五月二日、太陽工業から、マスペ番号二一一―一〇―九一―三七、カーテン丈三メートルのシルトプロテクター(以下「本件シプロ③」という。)二五本を二五二三万五〇〇〇円で購入した。

(九) 平成三年九月二〇日、本件倉庫が新築された。

(一〇) 原告は、平成三年一一月一九日、被告との間で、火災保険契約を締結した。

その際、B山は、右火災保険契約の締結を担当していた山下に対し、本件倉庫内には、常時三〇〇〇万円くらいの在庫がある旨を説明したため、本件倉庫内の商品・製品・半製品・仕掛品・原材料に関する保険金額を三〇〇〇万円とした。

(一一) しかし、原告の第六期(平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで)財務諸表には、原告の流動資産中の販売用資産は、五九万七〇〇〇円と記載されていただけである。

(一二) 原告は、平成四年一一月ころから、シルトプロテクターのリース業を開始した。そして、リースが始まった平成五年初頭ころ、関西新空港関連の工事はすべて終わっていたため、原告が発注するシルトプロテクターは、すべて敦賀港に搬出されることとなった。

(一三) 原告は、平成四年一一月、本件火災保険契約を締結(前記火災保険契約の更新)した。

当時、本件倉庫内に存在していた可能性があるシルトプロテクターは、本件シプロ②、③のみであったが、その際、B山は、本件火災保険契約の更新を担当していた山下に対し、関西新空港関連の仕事が景気が良いために倉庫の商品が増え、販売するとすぐに補充しなければならない状態で、常時約一億二〇〇〇万円の在庫があると説明した。そのため、本件倉庫内の商品・製品・半製品・仕掛品・原材料に関する保険金額を一億二〇〇〇万円に変更された。

(一四) 平成五年二月二六日、原告がシルトプロテクターのリース業を開始する際の売上予想を示した「敦賀港シプロレンタル」と題する書面が太陽工業の営業部から原告にファクシミリ送信された。

(一五) 原告の第七期(平成四年四月一日から平成五年三月三一日まで)決算報告書には、原告の期末棚卸高は、七三四〇万〇九六七円と記載されていた。また、原告の第七期(平成四年四月一日から平成五年三月三一日まで)財務諸表には、原告の流動資産中の販売用資産は、七三四〇万円と記載されていた。

(一六) 本件火災が発生した平成五年九月二七日当時、原告は、関西新空港関連の事業を既に終えており、リース業など新たな業務展開を迫られる状況にあったものの、本件倉庫などの購入資金などとして、紀陽銀行から約八〇〇〇万円、泉州銀行から約九八〇〇万円の借入れがあり、これによる金利が経常利益を圧迫しており、経営が逼迫した状況にあった。

(一七) 竹守が、平成五年九月二八日から本件火災を調査した結果、本件火災の状況等は、次のとおりであった。

(1) 本件倉庫は山道下の河原に位置しており、立ち寄る人もない閑散とした無人倉庫である。また、本件倉庫は、道路からかなり下方の河原にあり、一般人の立ち寄る場所ではなく、建物の裏にはガラスの割れた窓があり、出火場所には接炎着火と思われる箇所が複数あった。

(2) また、本件倉庫の扉は施錠されており、本件倉庫内には出火原因となるような物はなかった。

(3) 本件倉庫内中央部から北半分に、赤色化したワイヤー及びチェーンが大量に絡まって残っていた。B山の説明よれば、樹脂製品は西端北部に置かれていたということであり、残骸は確認することができたが、原形はなく、新品か中古かの選別、検数等は不可能であった。

(4) ワイヤー等の数を調べたところ、ワイヤーの両端の金具は七〇個、チェーンの数は四七個確認することができた。

(一八) B山は、平成五年九月二八日、原告事務所において、本件火災の調査に訪れた多田羅及び竹守に対し、罹災品であると申告した商品の中には海洋汚濁防止のためのシルトプロテクターがあること、そのシルトプロテクターは、原告が平成五年三月に購入したもの(以下「本件シプロ④」という。マスペ番号二七六―〇一―九三―〇〇三)で、数量は六〇本であり、四月の関西新空港関連の工事に使用するつもりであったが、工事が延びて倉庫に保管していることを述べた。

その際、B山は、本件シプロ④が太陽工業から原告に販売、納品されたことを示すために帳簿、請求書、納品書及び決算報告書(第七期)を多田羅に交付した。ただし、帳簿には本件シプロ④を仕入れた旨の記載がなかったため、原告の社員に、その末尾に手書きで「二〇〇〇万」「二〇〇〇万」「一二五三万」と書き込ませた上、右帳簿を多田羅に交付した。

しかし、本件シプロ④に関する領収書の作成日付は平成五年三月三一日であるのに対し、請求書及び納品書の作成日付はいずれも平成五年四月三〇日となっていた。

また、本件シプロ④六〇本のうち五八本は、いずれも同年五月一〇日、同月一二日、同月二六日及び同年一〇月二六日の四回にわたり、太陽工業から、直接、リース商品として敦賀港に搬出された。そして、右五八本のうち二三本は、同年八月五日、敦賀港から使用済みのシルトプロテクターとして引き揚げられ、日本セイフティー株式会社の倉庫に保管され、残り三五本については、そのまま敦賀湾海中において使用されていた。そして、B山も、本件シプロ④が本件火災当時、本件倉庫内に存在しないことを知っていた。

(一九) その後、B山は、多田羅に対し、本件シプロ④のマスペ、価額についての説明メモ及び価格表を交付した。

(二〇) 有田消防組合は、同月一六日、本件火災の原因としては放火以外には考えられないが、物的人的証拠が得られないため、放火の疑いとする旨の火災原因認定書を作成した。

(二一) C川は、同月一九日、多田羅を引き継いで本件火災を調査することとなった川並との面接の際、本件シプロ④が太陽工業から原告に販売、納品されたことを示す請求書、納品書控及び本件シプロ④のマスペを示し、本件シプロ④が太陽工業から原告に売却、納品された商品であることを述べた。

また、その際、C川は、本件シプロ④が原告の敦賀港へのリース商品として製造販売されたものであることを知りながら、川並に対し、本件シプロ④は阪南桟橋撤去工事に関して使用することを目的として設計、販売したものであること、大阪湾の水深から判断すれば、カーテン丈は三メートルのものが適当であるが今後の再使用の要望も考慮して七メートルのものを受注製作したこと、シルトプロテクターは倉庫に保管しておけば自然劣化はしないが直射日光に弱いものであること、原告の倉庫は本件倉庫一つのみであって今回の納品は太陽工業が手配したトラックで搬入したことを述べた。

(二二) B山は、同月二八日、川並との面接の際、本件シプロ④の代金決済は自社振出の手形で行ったこと、商品が倉庫に搬入される際には、原告社員は立会をせず、鍵は搬入業者が事務所まで取りに来ることになっており、本件シプロ④の搬入の際も同様であったこと等を述べた。

(二三) 北村は、同年一〇月ころ、C川から電話で「平成五年九月二七日に取引先の株式会社A野という会社の倉庫が火災に遭い、うちから納入したシプロが焼けてしまった。実は、このシプロに株式会社A野は保険を付けており、この度、保険金を請求することとなったが、その際、当社がシプロを販売した資料がいると言われている。よってA野へ納めたシプロのマスペ番号や、製造数を調べてくれないか。」と頼まれ、本件シプロ④に関する納品書、出荷チェックリストをC川にファクシミリ送信した。

(二四) C川は、同年一一月二日、川並との面接の際、手形は原告振出のものであること、右手形は同年九月には決済済みであること、工場からの搬出は何回かに分けて行われたこと、シルトプロテクターは普通のマッチやライターでは着火せず、着火するためにはガソリンのようなものを使用しなければならないこと等を述べた。

(二五) 川並は、同月一八日、太陽工業枚方工場の北村(以下「北村」という。)と面接し、北村から、発注書、納品書及び出荷チェックリストを受領した。

しかし、右出荷チェックリストには本件シプロ④の出荷先として福井や敦賀との地名が記載されていたため、川並は、本件シプロ④が本件火災当時本件倉庫内に存在したことについて強い疑問を感じた。

(二六) 川並は、同年一二月一七日、永田と面接し、代金として振り出された原告振出の手形の決済が行われているか否かの確認を求め、B山から、当座勘定出入明細表を受領した。

しかし、右当座勘定出入明細表によれば、本件シプロ④の代金五二五三万円に該当する決済の記載がなかったため、B山に尋ねたところ、B山は従前の説明を変え、「五月一七日に大林組振出の手形と交換する条件で自社振出をしており、条件どおり手形の交換が行われたため、自社振出の手形は決済されていない。」と回答した。

また、川並が、出荷チェックリストによれば本件シプロ④の出荷先が本件倉庫となっていないことを指摘すると、B山は突然怒り出し、従前の説明を変え、「本件シプロ④は山陰で使用の後、関空関連で使用するつもりであった。山陰でトラブルがあったため、その仕事はキャンセルになった。」と回答した。

このように、B山が従前の説明を頻繁に変えていったため、川並は、本件シプロ④が本件火災当時本件倉庫内に存在したことについて強い疑問を感じた。

(二七) 川並は、それまでの疑問点についてB山から明確な回答が得られなかったため、同月三〇日、在庫管理方法、倉庫の鍵の保管方法、本件シプロ④の搬入経路、決済方法等についての質問書を作成して回答を求めるとともに、倉庫内の収容物の申告とそれらの購入を裏付ける仕入、納入伝票の提出依頼をする書面を原告にファクシミリ送信した。

川並は、平成六年一月二五日、B山からの回答書をファクシミリ受信したが、その内容は次のとおりであった。

(1) 在庫管理については記帳しておらず、棚卸は毎年三月末に売上帳で行っていること。

(2) 倉庫内収容品の裏付けとなる仕入・納入伝票や請求書、領収書等はないこと。

(3) 本件シプロ④の保管場所や搬入経路については業者任せにしているため、一切判らないが、和歌山への輸送日時については、平成五年五月末から六月初めの三ないし四日間であり、B山が初日に倉庫を開け、最終日の夕方には製品の確認と施錠のために倉庫に行ったこと。

(二八) 川並は、右の回答内容が十分でなかったため、同年二月四日、次の内容を書面にして補足質問書を送付した。

(1) 事故日直近の決算期日である平成五年三月末の棚卸方法及び内容

(2) 本件倉庫の鍵を一時的に社外に貸し出した実績があるか否か

(3) B山が最終的に確認した本件倉庫内の状況及び罹災後に右状況に変化があったか否か

(4) 罹災当時の本件倉庫内収容品の品名・数量・購入先・購入時期・購入価額についての申告

(5) 過去に発注したシルトプロテクターの現場名・所在地・工期・発注者・型・数量の申告

(6) 本件シプロ④の搬入経路の再確認

(7) 期末在庫高七三四〇万〇九六七円の品名、棚卸価格、保管場所等の明細

(8) 交換された手形を受領された時の具体的状況

(9) シルトプロテクターに関する仕入れ・売上げ関係帳簿の提出依頼

川並は、同月一七日、B山から補足質問書に対する回答書を受領したが、罹災したシルトプロテクターは本件シプロ④六〇本のうち五八本であったこと、当該シルトプロテクターの搬入経路については不明であること、本件シプロ④六〇本の価格五一〇〇万円が期末在庫高七三四〇万〇九六七円の中に含まれていること、補足質問書で要求された資料は存在しないこと等が記載されていた。

(二九) 右回答書の内容が十分でなかったため、川並は、同年三月一〇日、次の内容の質問書を作成し、B山にファクシミリ送信した。

(1) 罹災シルトプロテクター(本件シプロ④)の納品時期、納品場所

(2) 右シルトプロテクターが一旦、福井に搬送された際の保管場所、現場名

(3) 右シルトプロテクターの本件倉庫への収容日及びB山の最終確認日

(4) 倉庫の施錠管理方法

(5) シルトプロテクターの棚卸方法

川並は、同月一六日、B山から右質問書に対する回答書を受領したが、右回答書には、伝票、帳簿、メモ等がないため、記憶しか頼るものがなく、当方の質問には答えられない旨記載されていた。

(三〇) 川並は、同月一八日、B山と面接し、B山は、資料がないため記憶で答えるしかないこと、被告の方で十分な調査をして欲しいこと、どういう点が不審なのか判らないこと、不審点が、罹災品が新しいものか、一度使用したものかという点であれば警察で調査して欲しいこと、原告にとっては、火災保険金よりも太陽工業との関係の方が重要であり、保険金が支払えないのであればそれでも構わないこと、を回答した。

(三一) 右回答の結果として被告独自で調査を進めるため、川並は、同月三一日、関係者に調査への協力を依頼して欲しい旨を記載した「御連絡」と題する書面を送付した。

そして、川並は、同年四月七日、B山から次の内容の書面を受領した。

(1) 罹災品の特定は、今まで提出した帳簿類で十分であり、関係者の調査は必要がないこと。

(2) 調査をするに当たり、他に迷惑がかかった場合は損害賠償をして欲しいこと。

(3) 保険金の支払留保云々は被告が決定することであり、原告はその決定結果により対処すること。

(三二) 右回答書によって、原告の協力を得ることができないことが判明したため、被告は独自で調査を進めることとし、川並は、出荷チェックリスト上、本件シプロ④は福井、敦賀に搬出された旨が記載されていたため、同所を調査することとした。

(三三) 川並は、同年四月一九日、敦賀港内工事に深い関わりをもつ秋田船具店の社長と面接をし、秋田船具店が、出荷チェックリストと同数(五八個)のシルトプロテクターを太陽工業から購入したことを確認した。

(三四) 川並は、同年五月一〇日、敦賀の第一港湾建設局敦賀港工事事務所の岩本課長と面接をし、太陽工業製のシルトプロテクター三五本を使用していることを確認した。

(三五) B山は、同年五月一八日、被告に対し、被告の調査のため他に迷惑がかかっており、責任ある回答が欲しい旨の要請を電話で行った。

そのため、川並は、平成六年六月二日、B山と面接し、B山から

(1) 罹災物件は福井で使う予定であったが、金のことでトラブルとなり、先方の責任で返送させたものであること。

(2) 調査の影響で本来の仕事に支障が生じ、太陽工業との付き合いも現在ではまったくないこと。

(3) 他に迷惑がかかった場合は、被告で賠償すると言って欲しいこと。

(4) 調査を続けるのであれば、原告の名前を出してもらってもよいこと。

を申し渡された。

(三六) 川並が、本件火災の調査を被告のみで継続することは難しいと判断したため、被告は、同年六月ころ、ニックに調査を依頼した。

(三七) B山は、同年七月二八日付の損害明細書において、日高に対し、本件火災当時本件倉庫内にあったシルトプロテクターは、本件シプロ④である旨報告した。

(三八) B山は、同月二九日付の確認書作成に当たり、日高に対し、本件火災当時本件倉庫内にあったシルトプロテクターは、本件シプロ④である旨述べた。

(三九) B山は、同年九月七日付の損害明細書において、日高に対し、本件火災当時本件倉庫内にあったシルトプロテクターは、本件シプロ④である旨報告した。

(四〇) B山は、同月七日付の確認書二通の作成に当たり、日高に対し、本件火災当時本件倉庫内にあったシルトプロテクターは、本件シプロ④である旨述べた。

また、本件火災当時、カーテン丈七メートルのシルトプロテクターは本件倉庫内に存在しなかったにもかかわらず、その際、B山は、日高に対し、本件火災の状況等について「内部の焼け状況を見ると、プロテクターは七メートルカーテンを巻いて二つ折りにして五二本積み上げていたのです」と述べた。

(四一) 竹守は、被告から、被告及びニックの損害調査結果を部分的に聞いていたが、B山のシルトプロテクターの本数及び保管状況に関する右報告を聞いて、六〇本近くものシルトプロテクターが二つ折りになって積み上げられていた場合、下層には相当な重量がかかっているはずであるから、燃焼のための酸素が不足しやすい状態になっているはずであること、また、本件倉庫の焼け方と比較して、あまりにも短時間に燃焼し、短時間で消火していることに照らして、B山の右報告に疑問を抱いた。

結局、竹守は、B山の右報告への疑問及び本件倉庫内に存在していたシルトプロテクターに関するB山の報告の変遷が激しいことから、被害額を鑑定することができないと考え、鑑定書の作成を断念した。

(四二) 日高の調査によれば、本件シプロ④が納入されていった敦賀港工事関係者の中では、本件シプロ④は太陽工業が直接にリースした製品であると考えていた者がほとんどであり、その間に原告が介入していることはおろか、原告の存在すら知っている者はほとんどいなかった。

(四三) C川は、同年九月、北村に対し、電話で「A野が火災保険の請求に当たって、いろいろ資料が必要と言っている。よって、同社から注文を受け、製造したシプロをすべてリストアップしてくれないか。」と頼んだ。

そこで、北村は、商品リストを作成し、同月三〇日、C川にファクシミリ送信した。

(四四) C川は、同年一〇月二六日、北村に対し、「A野から受注したシプロの出荷日を調べてくれ。」と述べ、調べるべきシプロはマスペ番号二一一―一〇―八九―〇六四(本件シプロ①分)及び二一一―一〇―九一―〇一二であるとして、その調査を頼んだ。

そこで、北村は、商品リストの下段に、その出荷日を書き加えた商品リストを作成した。右の二つの商品リストには、本件シプロ①の出荷状況は具体的には記載されていなかった。

(四五) C川は、同年一一月末ころ、北村に対し、「実は、以前整えてもらった、敦賀へ出荷した商品が、本件倉庫で被害に遭ったと被告に報告したところ、それが嘘であることが発覚してしまった。原告から新たな証明書を出さなければ、保険金が下りないので、証明願を書いてくれと頼まれている。自分は被告に信用がなく、自分の名前で証明しても通らない。迷惑はかけないので、北村さんの名前で証明してくれ」と述べ、「証明願」と題する書面(以下「証明願」という。)を差し出した。

証明願に記載されていたのは、太陽工業から原告に納品し、本件火災当時、本件倉庫内に存在したシルトプロテクターは本件シプロ①八六本のうち二三本、本件シプロ②一二本及び本件シプロ③二五本の合計六〇本であるという内容であった。

北村は、本件シプロ①ないし③がすべて原告からの注文によって、太陽工業枚方工場で製造したことを証明することはできるものの、証明願の末尾に書かれていた「合計六〇本のうち五二本が倉庫に保管中でありました。」との事実については、北村自身で証明することができるものではないと考えたため、右証明願に関与するのは気が進まなかったが、C川とは一〇年来の付合いがあり、友人であった上、同人から「お前には絶対迷惑をかけない。」と言われたため、不本意ながらこれに応じることとし、署名者欄の末尾に生産事業部枚方工場のゴム印及び北村の認印を押捺し、同日、C川に交付した。

(四六) 日高は、同年九月ころ、北村を訪問し、「株式会社A野へ販売したシプロすべての内容を確認したい。」と述べ、受注日、製造日、出荷日、シルトプロテクターを輸送した運送会社名などを教えて欲しいと頼んだ。またその際、日高は、原告に請求したシルトプロテクターの代金、その請求書及び入金記録も提出して欲しいと頼んだ。

そこで、北村は、シルトプロテクターの製造記録等を調べ、前記商品リストにさらに調査結果を書き加えた商品リストを作成した上、同年一一月ころ、ニックの調査員に対し、右商品リストを交付した。

また、シルトプロテクターの請求書及び入金記録は北村の手許になかったため、北村は、同年一一月一四日、C川に対し、右商品リストをファクシミリ送信した上、電話で「株式会社ニックの調査員から頼まれたのだが、商品リストに載っているシプロの請求書、入金伝票など探してくれ。」と頼んだ。これに対し、C川は「判った。自分の方で整えてニックの方へ報告しておく。」と答えたが、実際にはそれらの資料をニックに提出することはなかった。

(四七) B山から委任を受けた森本弁護士は、同年一二月六日、被告を訪れ、従前のB山の損害申請は誤りであり、正しい申告内容は「証明願」と題する書面のとおりであるとして、右書面を被告に提出した(ただし、前記認定のとおり、本件シプロ①は、本件火災が発生する以前にいずれも大林組に売却されており、本件火災当時、本件倉庫内には存在しなかった。)。

(四八) 原告側からの右のような請求に対し、被告は、平成七年三月八日、通知書において、原告の右請求には一切応じない旨回答した。

(四九) 右のような被告の対応に対して、原告は、同年四月二一日、証明願どおりの内容に基づいて、本件訴訟を提起した。

2(一)  右認定の事実によれば、B山は、本件シプロ④が本件火災当時、本件倉庫内に存在しないことを知りながら、C川と共謀して、本件火災直後から一年間以上にもわたって、書類や証人を使用して本件シプロ④が本件火災当時、本件倉庫内に存在していたと執拗に申告したこと、その後、被告やニックの調査により、本件シプロ④が本件火災当時、本件倉庫内に存在しなかったことが露見すると見るや、B山は再びC川と共謀して、資料の裏付けもなく、またB山自身もその確信がないまま、本件シプロ①のうち二三本、本件シプロ②、③の合計六〇本のうち五二本が本件火災当時、本件倉庫内に存在していた旨の証明願を北村に作成させた上、これに基づいて被告に対し、保険金請求をするに及んだこと、しかし、B山の右請求に反し、本件シプロ①は本件火災当時、本件倉庫には存在しなかったこと、がそれぞれ認められる。

(二) そのほか、本件火災の状況についても、本件倉庫の所在場所、施錠状況、焼損の状況・程度、本件火災当時の原告の経営状況、原告の実態に基づかない保険金額の増額等、原告が関与した放火によるものではないかとの疑念を抱かせる事情も多数存在する。

(三) しかし、原告が関与した放火であるか否かの点をひとまず措くとしても、右(一)のような経過に照らせば、B山の保険金請求行為は、不正な保険金の詐取を目的としたものと評価せざるをえず、信義誠実の原則上許されない不実の表示として、免責条項1が適用されるべきであって、被告には、原告に対する本件火災保険契約に基づく保険金の支払義務はないものというべきである。

二  そうすると、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことに帰する。

第四結論

以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 島田睦史 坂本浩志)

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